主要な理科系の資格のなかでも、IBのディプロマプログラム(DP)はシミュレーションについて異例なほど明確な立場を示しています。生物・化学・物理の各科目で教科評点の20%を占める唯一の内部評価である科学的探究では、実験室での実践的な作業、データベース、モデリングやシミュレーション、あるいはそれらを組み合わせた方法のいずれを土台にしてもよいとされています(IBO)。
これは英国の多くのシラバスが取る立場とは実質的に異なるものであり、正確に理解しておく価値があります。実験室を備えた学校では見過ごされがちである一方、実験室を持たない学校では拡大解釈されがちだからです。
IBは具体的に何を認めているのか
科学的探究は個人で行う単一の探究であり、10時間が配当され、3,000語以内で報告し、24点満点で採点されます。教員が内部評価を行い、外部モデレーションを受けます。方法論の選択は生徒に委ねられており、シミュレーションやデータベースに基づく探究も、実験室での探究とまったく同じ規準で評価されます。
重要なのは同じという点です。シミュレーションという選択肢は、より楽な道でもなければ、設備の乏しい学校への譲歩でもありません。焦点の定まったリサーチクエスチョン、生徒自身が根拠を示した方法論、不確かさに正しく対処したデータ処理、そして採用した手法の限界に踏み込んだ分析が、変わらず求められます。シミュレーションを選んだ生徒は固有の限界を引き受け、それについて論じなければなりません。そこを考え抜いているかどうかは、試験官には見抜かれます。
シミュレーションによるIAが本当に力を発揮する場面
いくつかの種類の探究は、学校の実験台よりもシミュレーションで行うほうが優れています。しかもそれは、手間を省くためではありません。
多数のデータ点を必要とする探究。濃度を変えながら反応速度の変化を調べ、意味のあるエラーバーを描けるだけの繰り返し測定を行おうとすると、実際の実験台では試薬・時間・忍耐が制約になります。10時間の実験室利用で、評価規準が求める分析を支えるだけのデータ点が得られることはまれです。
広いパラメータ範囲にわたる探究。とくに物理の探究では、ある変数の1桁の範囲ではうまく働くのに、その外側では精度を失う装置が問題になります。シミュレーションを使えば、ある関係がどこまで成り立ち、どこで破綻するのかを探ることができます。もともと成り立つとわかっている領域で確認するだけの探究よりも、はるかに興味深い内容になります。
危険を伴う、時間がかかる、あるいは規制物質を必要とする探究。本当に面白い問いのなかには、16歳の生徒に扱わせられない試薬や、学校では確保できない時間スケールを要するものがあります。シミュレーションは、科学的な中身を損なわずにこの制約だけを取り除きます。
方法そのものが着目する変数となる探究。手法どうしを比較したり、特定の手順上の誤りが結果までどう伝播するかを定量化したりする作業は、実験台では困難です。誤りを意図的に、しかも再現可能な形で起こす必要があるからです。物理演算に基づくシミュレーションであればこれは容易であり、上位の評価バンドが求める方法論的な省察をまさに引き出します。
シミュレーションが今なお及ばない点
二つあります。学校はいずれについても率直に認識しておくべきです。
一つ目は手技です。IBの理科科目は全体として生徒が実験技能を身につけることを前提としており、ディプロマはその技能が当然視される大学の理系課程への準備でもあります。IAは2年間のコースにおける一つの課題にすぎません。シミュレーションによる優れた探究を仕上げた生徒であっても、プログラムの他の場面では実際に実験台に立つ時間が必要です。IAでシミュレーションを用いることは正当な方法論上の選択であって、実技をやめる理由ではありません。
二つ目はシミュレーション自体の質です。あらかじめ用意されたアニメーションを再生するだけのプラットフォームに依拠した探究は、分析の段階で致命的な問題を抱えます。分析すべき本物が存在しないのです。結果が計算されたものではなく作り込まれたものであれば、特徴づけるべき測定の不確かさも、特定すべき系統誤差も、ノイズフロアも、モデルの限界についての誠実な議論も生まれません。生徒が問いかけられるのは、実際に何かをシミュレートしているシミュレーションだけです。
クラスにIAの基盤としてプラットフォームを使わせる前に適用すべき実践的な判定基準は、次のとおりです。そのシミュレーションは現実的なばらつきを伴うデータを生み出すか。そして生徒はそのばらつきがどこから来るのかを説明できるか。実行するたびに同じきれいな数値が返ってくるようなら、他がどれほど優れていても不適格です。
共同プロジェクトの要素はどうか
IBの理科科目には、複数の理科科目にまたがる共同プロジェクトが含まれ、共通の課題をそれぞれの学問領域の視点から扱う形で設計されています。複数キャンパスを持つインターナショナルスクールやオンラインスクールのように生徒が地理的に分散している学校にとって、これはグループ4の経験のなかで運用が最も難しい部分です。生徒どうしが協働すること自体が目的だからです。
共有された仮想環境はこの課題にうまく対応します。異なる国にいる生徒が、同じ装置を使い、同じ課題に取り組み、全員が同じ設備を利用できるからです。これは、物理的な実験室をいくつ分散配置しても実現できないことです。
IB校はこれをどう活用すべきか
明らかな利害関係のある事業者からの提案という前提つきですが、私たちの推奨は次のとおりです。
- シミュレーションを楽な選択肢として生徒に提示しないこと。相応の要求水準があり、負担が軽いと期待して選んだ生徒は質の低いIAを提出します。
- 問いの幅を広げるために使うこと。IAにおけるシミュレーションの最大の利点は、本当に興味深いリサーチクエスチョンを実現可能にする点であり、学校の経費削減ではありません。
- 限界を明示的に教えること。自分のモデルが何をとらえられないかを言葉にできる生徒は、評価規準が求める理解をまさに示しています。
- 実験台を手放さないこと。実験室がある学校では、シミュレーションを置き換えではなく準備のために使ってください。 反転型実技の考え方 は、IBにも同じように当てはまります。
WhimsyLabsの位置づけ
WhimsyLabsは物理エンジン上で動作します。これこそがIAにとって重要な性質です。試薬には現実的な濃度と不純物があり、測定には本物の不確かさが伴い、結果は作り込まれるのではなく計算されます。そのため、ある関係を調べる生徒には説明を要するばらつきが現れ、手順上の誤りを持ち込んだ生徒はその誤りが伝播していく様子を目にします。IBの生徒は、分析する対象と、評価の記述に誠実に書ける内容を手にすることになります。
また、一般的なハードウェア上のブラウザで動作します。これは、異なるタイムゾーンで自分のデバイスを使って学ぶ国際的・オンラインのIB生徒層にとって重要です。さらに、私たちの評価は生徒が何を書いたかではなく何を行ったかに基づいているため、複数の探究をモデレートする教員は、それぞれの背後にある実際のプロセスの記録を参照できます。
IBは、よく構成されたシミュレーションによる探究も、実験室での探究と同じように科学的思考を示しうるという熟慮された判断を下しました。その判断は、慎重に、そしてその重みに耐えられるプラットフォームとともに、活かす価値があります。
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参考文献
- International Baccalaureate Organization. Diploma Programme sciences. https://www.ibo.org/programmes/diploma-programme/curriculum/sciences/
- International Baccalaureate Organization. Assessment and exams, Diploma Programme. https://www.ibo.org/programmes/diploma-programme/assessment-and-exams/
- Finkelstein, N. D., et al. (2010). When learning about the real world is better done virtually. Physical Review Special Topics: Physics Education Research.
